日本のミステリ史に残る傑作、「戻り川心中」を紹介するぞ。
確か、2013年に亡くなった作家さんでしたっけ。
うむ。恥ずかしながら、未読でずっと読みたいと思っていた本なんだ。
期待値が高かったんですね。
それで感想の方は、一体どんな……。
概要
大正歌壇の寵児・苑田岳葉。二度の心中未遂事件で、二人の女を死に迫いやり、その情死行を歌に遺して自害した天才歌人。岳葉が真に愛したのは?女たちを死なせてまで彼が求めたものとは?歌に秘められた男の野望と道連れにされる女の哀れを描く表題作は、日本推理作家協会賞受賞の不朽の名作。耽美と詩情―ミステリ史上に輝く、花にまつわる傑作五編。(「BOOK」データベースより)
個人的ポイント
登 場 人 物 : 短編なのに、1人1人の登場人物が濃い。
文 章 力 : 美しい。ノスタルジックな文章でした。
テ ー マ : どれも悲しくも切ないテーマばかりでした。
ト リ ッ ク : トリックというよりも全て動機を主眼に置いてる。
後 読 感 : 胸がいっぱいになる後読感でした。
とても美しい文章でありながら、重厚な物語ばかり。
食わず嫌いの人は、是非とも読んで欲しい作品です。
感想
有名な《花葬シリーズ》。
でも、実は読むのは初めてで、何故もっと早く読まなかったか、と強く後悔した作品でした。
大正時代を背景設定にしている短編集。
まず、この背景設定がとても凄いと思いました。この大正時代と静謐な文章が凄く合っていて、見事な世界観を創り上げています。情景が目に浮かび、まるで自分もこの世界に迷い込んだようでした。
ミステリの「謎」という醍醐味で読ませる作品という訳ではなく、そこに住み、息づいている人々の「人情」をミステリに組み込み、ひとつの作品として昇華しているようでした。読み心地が良く芸術性を感じる、とても上品なミステリ小説です。
一番好きな話は、やはり表題作の「戻り川心中」です。
何故、歌人の岳葉は「戻り川」と呼ばれる川で生き残ったのか? 何故、そんな川で心中を図ったのか? というのがこの短編の大きな謎です。
この、動機はかなり唸りました。
というよりも、この著者の素晴らしい所は、どの短編作品も「動機」が考えも及ばない点にある所だと思いました。
もう少し、時間が経った頃にもう一度読んだら、もっとこの作品の良さが分かるような気がしました。
なんて美しい文章なんだろう……。
文章ひとつひとつが息づいているようで、とても胸が一杯になりました。
こんな人におススメです
・質の高い短編小説を読みたい人。
・動機に重点を置いた作品を読みたい人。
・全く展開が異なり、飽きない短編を読みない人。
・連城 三紀彦をこれから読みたい、という人。