今回は「最後の証人」の続編「検事の本懐」を紹介していくぞ。
あれ?
「最後の証人」は弁護士が主人公でしたよね。何で検事なんですか。
主役の佐方が弁護士になる前、検事の頃の話なんだ。
すると時系列は「最後の証人」よりも前ってことですか……。
概要
ガレージや車が燃やされるなど17件続いた放火事件。険悪ムードが漂う捜査本部は、16件目の現場から走り去った人物に似た男を強引に別件逮捕する。取調を担当することになった新人検事の佐方貞人は「まだ事件は解決していない」と唯一被害者が出た13件目の放火の手口に不審を抱く(「樹を見る」)。権力と策略が交錯する司法を舞台に、追い込まれた人間たちの本性を描いた慟哭のミステリー、全5話。第15回大藪春彦賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
個人的ポイント
登 場 人 物 : 相変わらず「人」を上手に書くのが上手かったです。
文 章 力 : 文章力は高くて、読みやすかったです。
テ ー マ : 罪とは何か。検事の仕事とは何か。
ト リ ッ ク : どれも「罪」と「人」。事件は人、という言葉が良く分かる。
後 読 感 : 本懐、という深い意味に暫し放心しました。
色々な佐方の一面を垣間見ることができる作品。
彼の生い立ちから、検事になってからの話までが収録されていぞ!
感想
5つの短編が収録されている今作。
主役は「佐方貞人」ですが、各話の主人公は全員が別々でした。刑事、佐方の上司、同級生、事務官、ライターで、佐方が主人公として登場する話はありませんでした。
しかしどの話にも、検事の佐方貞人が登場します。主人公は佐方ではないですが、物語の中心――核――には、必ず佐方がいました。
客観的に佐方を描いている分、佐方の人となりが良く分かる。
「事件をまっとうに処分するだけ」、というのが、佐方の仕事に対するポリシー。この言葉がどのように生まれたのか、そしてこの言葉が持つ意味が良く分かるような話が収録されてました。
まだ検事として新人の佐方や、学生時代の佐方、そして佐方の父親の話など。佐方を構成する話はどれも濃厚で、正義感ある彼の造形が良く分かりました。
容姿はだらしなく、ぼんやりしているようなイメージがある佐方ですが、その身の内に秘めている事件に対する真摯な態度は誰よりも真っ直ぐで、そこに惹かれます。
話はどれも短編と思えない程、厚い。
特に好きな話は「樹を見る」と「罪を押す」でした。
誰もが、手柄やその人の表面しか見ず、事件の本質を見ようとしない。
「こうに決まっている」「どうせ、こうだろう」と誰もが深く事件を見ない。そんな事件たちを佐方は深い部分にまで目を凝らして、事件と向き合い、真相を導く。
事件の真相や動機も驚くことばかりでしたが、佐方という人柄に惹かれた一冊でもありました。
私の佐方に対するイメージは青い炎です。
何を考えているのか、よく分からない佐方ですけど、この本を読んでみて彼の熱い一面が良く分かりました。
こんな人におススメです
・「最後の証人」を読んだ人。
・事件をまっとうに処分する、という言葉の意味を知りたい人。
・濃厚で深い人物描写を描いた作品に興味ある人。
・検事の短編小説を読みたい人。